聖武天皇の時代、河內国に利荊女という人がいました。彼女は幼い頃から心身が清らかで、悟性が高く、仏法を尊ぶ心を持っていました。彼女はいつも家で仏経を誦しましたが、行き来する人たちはみんな彼女の読経を聞くのを楽しんでいました。
利荊女は仏経を写すのが好きで、写した仏経が家にたくさんありました。しかしそのうちの三つの手写しの仏経がなくなり、どこにも見つかりません。利荊女は誰かに盗まれたと思いました。
ある日の夜、利荊女は何の病気もないのに突然死にました。その後、閻魔大王のところに行きました。閻魔大王は彼女を見ると、席から立ち、利荊女を席に着かせ、言いました。「あなたの仏経を読む時の声がとても美しいと聞いた。わしはあなたの読経の声を聞きたくてここに誘ったのじゃ」
利荊女は閻魔大王に仏経を読み聞かせました。読み終わると閻魔大王は席から立ち、お辞儀しながら「ほんとうに感動した」と言いました。三日後、閻魔大王は利荊女を人間の世界に戻らせることにしました。
利荊女は閻魔大王の宮殿の中で3人の黄色い袈裟を着ている人に会いました。3人は金色にぴかぴか光り輝いていました。その3人は利荊女にこう語りかけました。「お久しぶりだね。あなたがとても懐かしくて会いたかったよ。今日ここで会えて本当に嬉しい。お家に帰った三日後、私たちはまた奈良城東の町で会えるよ」話が終わると3人はさっと姿を消しました。利荊女は彼らを知らないので不思議に思いました。
利荊女がこの世で生き返った三日後、彼女は奈良城東の町に行き、3人の黄色い袈裟を着る人を待ちました。ずっと待っても来なかったのでそこを離れようとした時、服装が乱れた一人の男が大声で呼び売りしました。
「仏経を売るよ!仏経を売るよ!」
利荊女は仏経が買いたかったので、男を呼び止め、仏経を受け取りました。仏経を見た瞬間、彼女は驚きました。「あら、これは私が手写した仏経だ」それはまさになくしたあの三つの手写しの仏経だったのです。
男は五百錢で仏経を売ろうとしました。利荊女は彼が泥棒だと知っていましたが、前世の負い目を償うのかもしれないと思い、五百錢を払って手写しの仏経を買いました。
その時、彼女は閃きました。あの世で出会った3人の金ぴかで黄色い袈裟を着た人はこの三つの手写しの仏経だったのです。
人々はこの事を聞き、利荊女をもっと尊敬するようになり、ますます多くの人が仏法を信じるようになりました。
参考資料:虎関師錬 (著) 『元亨釈書』/景戒 (著)『日本国現報善悪霊異記』
轉載/(大紀元日本ウェブ編集部)